━━ はじめに ━━
今回は、建築現場で施工管理をされているAさんの「誰にも言えない精神的な限界」についてご紹介します。
Aさんは決してスペックが低いわけでも、仕事が嫌いなわけでもありません。
ただ、5年間ひたすら現場に向き合ってきた結果、少しずつ、確実に、何かが削れていったのです。
施工管理の現場で「もう限界です」と言える人は、ほとんどいません。
これはAさんだけの話ではなく、同じ状況に置かれている施工管理技士が全国にたくさんいる、という話です。
Aさん/28歳・男性
2級建築施工管理技士
勤務先:中堅ゼネコン(従業員200名規模)
現場歴:入社5年目、マンション新築工事の現場を単独で担当
家族構成:一人暮らし(地元を離れた都市部に赴任中)
悩み:精神的な限界を感じているが、誰にも言えない状況が続いている
みこやまAさんの話を読んで、32歳のころの自分と重なりました。
「しんどい」と言えなくて、限界なのに気づかないふりをして、
それでも毎朝ヘルメットを持って現場に向かっていた時期があります。
あのとき誰かに「それ、普通じゃないよ」と言ってほしかった。
だからこそ、同じ状況にいる方に
この記事を読んでほしいと思っています。
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「俺だけがおかしいのか」という錯覚
Aさんは毎朝6時に現場に入り、日が暮れてから事務所で書類仕事をして、ホテルに戻るのは早くても22時を過ぎます。
シャワーを浴びて、翌日の工程を確認して、下請け業者からのLINEに返信して、気がつくと深夜1時を回っています。
「眠いというより、頭が痛いんです。でも布団に入っても、現場の段取りが頭を回り続けて、なかなか眠れない」
Aさんがはっきりと「限界だ」と感じたのは、現場の朝礼で段取りの説明をしているとき、急に言葉が出てこなくなった瞬間でした。
長くて10秒ほどの沈黙。職人たちの視線を浴びながら、頭が真っ白になった。
「あのとき、ああ、やばいな、と思いました。でも現場に戻ったら、また普通にやってましたよ。なんか、感覚が変になってるんだと思います」
「感覚が変になっている」 ・・・この表現が、Aさんの状況をよく表しています。
本来、「しんどい」「限界です」という感覚は、体と心が危険を知らせる正常なアラームです。
しかし施工管理の現場では、そのアラームを何度も無視し続けるうちに、アラーム自体が鳴らなくなっていくことがあります。
「おかしいのは俺だけか?」と思いたくなりますが、それは違います。アラームが聞こえにくくなっているだけで、体は確実にダメージを受け続けています。
施工管理の疲労は「種類が違う」
Aさんが経験している疲れは、単なる「残業が多い疲れ」とは質が違います。
施工管理には、他の職種にはない疲労が複数同時に重なる構造があります。
■ 判断し続けることの疲労
一日に何十回もの判断を迫られます。
「ここはこれでいいですか?」という職人からの確認、設計との変更協議、施主からの追加要求、天候変化への対応
これを全て「その場で」、「間違いなく」さばき続けなければなりません。
毎日これをフル稼働させていると、判断の精度が落ちてくる。
Aさんが朝礼で言葉に詰まったのも、その疲労の積み重ねだったと思います。
みこやま昔の話だけど、仕事がきつくて
先輩に「正直しんどいです・・・。」と言ったら
「俺のほうがもっとしんどい」
って返してきたヤツいたなぁ・・・。
あれ、今思えばだいぶおかしな職場だったなぁ(苦笑)。
誰かに話してちょっと楽になる、
それだけのことができない環境って、
冷静に考えたら相当おかしいです。
気づいたときには麻痺してるから、自分ではわからないんですよね。
■ 板挟みの疲労
元請けは「工期と品質」を要求します。下請けは「人員と条件の確保」を求めます。施主は「要望の追加と変更」を続けます。これらを全て受け止めて、全方向に対して「問題ありません」と言い続けるのが、施工管理という仕事の日常です。
Aさんは「全員が正しいことを言ってるんですよね。でも、全部を同時に叶えるのは無理なんです。その無理を、なんとかするのが仕事だって言われたらそれまでなんですけど」と話します。
この「全員が正しいけど、全員を満たせない」という状況を毎日繰り返すことの消耗は、経験した人にしかわかりません。
→ 板挟みによる孤独感が深刻なケースは「夜中に図面を広げて泣いた話(No.08)」も読んでみてください。
■ 責任の非対称性の疲労
うまくいっても誰も褒めない。何かが起きれば、最初に責任を問われるのは施工管理です。
成功は当たり前、失敗は個人の責任、
この非対称な評価の中で何年も過ごすと、人はじわじわと削られていきます。
「頑張ってもプラスにならないけど、ミスしたらマイナスになる。だから何かが起きないように、ひたすら神経を張り続けるしかない。それが続くと、精神的にすごく疲れます」
Aさんのこの言葉は、施工管理という仕事の本質的なしんどさを突いています。
「弱音を吐けない空気」はどこから来るのか
Aさんが「限界です」と言えない理由には、個人の性格以上に、職場の文化的な背景があります。
建設業界には、長い歴史の中で培われた「現場は根性で乗り越えるもの」という価値観が根強くあります。怒鳴られることが教育で、きつい現場をこなすことが一人前の証明で、弱音を吐くことは恥だ、、、
という暗黙の基準が、先輩から後輩へと受け継がれてきました。
誰かが意図的に作った文化ではないかもしれませんが、積み重なった結果として「限界です」という言葉を出す前に、人が壊れる現場ができあがっています。
Aさんも「怒鳴られることは正直慣れてしまいました。慣れたというより、何も感じなくなった感じです。それが正常なのかどうか、もうよくわからないんです」と話します。
「何も感じなくなった」——これは慣れではなく、麻痺です。
回復が一番難しいタイプの消耗です。
限界のサインを見落とさないために
ここ数週間の自分に当てはまるものがないか、正直に確認してみてください。
・朝、目が覚めた瞬間から「また今日か」という気持ちになっている
・休日でも、現場のことが頭から完全に離れない
・以前は気にならなかった小さなことで、強くイライラする
・ご飯を食べても、あまり美味しいと感じない
・誰かと話すのが億劫になってきた
・「もうどうでもいい」と思う瞬間が増えてきた
・体のどこかが常に重い、または痛い
・好きだったことや趣味に、まったく興味が湧かない
・将来のことを考えると、具体的な希望より漠然とした不安しか出てこない
・誰かに相談したいが、誰に言えばいいかわからない
3つ以上当てはまった場合、体と心が「そろそろ本当に危ない」というサインを出しています。
これは甘えではありません。
Aさんは「正直、ほとんど当てはまりますね。でも、だからってどうすればいいかわからない」と話していました。
「どうすればいいかわからない」という状態が、実はもっとも危険なサインのひとつです。
→ メンタル面の悩みを正面から扱った「施工管理でメンタルクリニックに行った話(No.24)」も参考にしてみてください。
「言えない」のは強さじゃなく、孤立だ
「現場で弱音を吐かない」ことをプロの矜持だと感じている施工管理技士は多いです。
気持ちはよくわかります。でも少し視点を変えて考えてみてください。
プロ野球の投手が肘を傷めたとき、黙って投げ続けることを「強さ」とは言いません。
状態を正確に把握して、医師や首脳陣に報告し、最適な判断を下すことが「プロの自己管理」です。
施工管理技士も同じです。「言えない」は強さではなく、助けを求めるルートが存在しない孤立した状態に過ぎません。
今の環境が、あなたの標準値ではない
Aさんは「施工管理ってこういうもんだと思ってました。でも最近、本当にそうなのかな、とは思い始めています」と話します。
その疑問は、正しい疑問です。
残業が毎月100時間を超えることも、休日出勤が当たり前なことも、怒鳴られることも、、、
これらはAさんが今いる職場の標準であって、施工管理という仕事全体の標準ではありません。
実際に、週休2日が守られ、残業が少なく、職場の人間関係も良好で、正当に評価されている施工管理技士が日本中にいます。
Aさんが感じている限界は「施工管理という仕事の限界」ではなく、「今の職場の環境の限界」である可能性が高いのです。
→ 同じ施工管理でも職場が変わると評価が一変した話は「No.09」で詳しく書いています。
みこやま昔の私の話ですが、
転職サービスに登録したのは夜中の0時過ぎでした。
現場の書類を横に広げながら、半ばヤケで。
登録したからって次の日から何かが変わるわけじゃないんですけど、
「自分には選択肢がある」と知るだけで、
なぜか現場が少し怖くなくなったんですよね。
あのとき動いていなかったら、
今も「まあ仕方ない」と
言い続けていたと思うと、
ちょっとゾッとしますね・・・。
まずは外にどんな選択肢があるのかを知ることから始めてみてください。
施工管理に特化した転職サービスへの登録は無料で、今すぐ辞める必要も、すぐに決断する必要もありません。
「自分には選択肢がある」ということを知るだけで、明日の現場が少し違って見えてきます。
施工管理という仕事が嫌いになる前に、環境を変えるという選択肢を知っておいてください。
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━━ 関連記事 ━━
・No.08「夜中に図面を広げて泣いた話。施工管理の孤独な戦いを誰も知らない」
・No.09「施工管理に向いていないと思っている人のほとんどが、向いていない職場にいるだけだ」
・No.24「施工管理でメンタルクリニックに行った話を、ここで正直に書く理由」
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